サービスとしての物語2

前回『サービスとしての物語〜変質する物語〜』で涼宮ハルヒは作品(物語)としてのインターフェース(API)を数多く、そして自由な状態で公開しているからこそ人気になった」という結論を出したが、題名の「サービス」について言及しなかったので、今回はそれについて多少、説明します。

Web2.0とオタク」でも触れたが、現在のオタク市場(”萌え”や”電車男”などで注目されている市場)では、Web20的な性質を持った作品が人気になり、不特定多数無限大存在している能動的な表現者を巻き込む作品作りが重要になっている。
東 浩紀の「ゲーム的リアリズムの誕生」では不特定多数無限大にいる能動的な表現者に対する言及は無いが、オタク市場ではアニメやライトノベルやゲームや同人誌といった多岐に渡るメディアで自由に使える、使いやすいキャラクターや物語が重要である、と述べている。

使いやすいキャラクターとは、例えば、語尾に「にゅ」なり「にょ」なりを付けることなんかが挙げられる。これは作家としての能力がなくても、この語尾さえ付けてやれば、そのキャラクターの言葉のように見えるという、憎たらしい機能だ。通常、語尾を断定にするか、疑問にするか、曖昧にするか?や接続詞をどうするか?といったところでキャラクターの個性を出すのだが、そういったセンスが一切いらない。
例えば、不必要に大きなリボンやアホ毛などが挙げられる。これはキャラクターの書き分けができなくても、この特長さえ明示できれば、そのキャラクターのように見えるという、憎たらしい機能だったりする。

どちらも作者が下手であることを保障するものでもあるが、それ以上に、こういった機能(インタフェース)を多く公開することが人気作品を作るコツなのだ。
能動的な表現者は、明示されている機能(特徴)を使うことで、簡単にその作品のコピー(新しいサービス)を作ることができる。

いかに効率よく、作品の特徴を機能として公開し、かつ、その組み合わせによって作品の独自性を表現できるか?が現在のオタク市場で求められる才能なのだろうと思う。

作家性の強い作家。例えば、押井守であったり、大友克洋や、その他、評論活字などで騒がれる作家達は、あまりにも作家性が強すぎて、コピーを簡単に作ることができない。それ故、オタク市場ではあまり話題に上らない。

しかし、今まで挙げてきたような特異さを持った作品を、本当に”作品”と言ってよいのか?これが今回サービスという言葉を題名に使ったそもそもの理由だ。
オタク市場で人気になっている作品とは、作品自身よりも、作品により誘発された爆発的に増殖するコピー達を含めた全体、を指しているのではないか?
作品が作り出したプラットフォーム(環境)の上で、次々に新しい作品が作られる。このプラットフォームの開発が今のオタク市場でウケているのであれば、やはり、作品を作るというよりはもっと別の言い方をしたほうがよいと思われる。
私は今回、仮にサービス(取引の対象となりうる無形の商品のこと)と呼んだ。



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