ビジネスモデルとしてのオープンソース現象 『アイドルマスター』
以前,ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』 - WebLab.otaで,組曲『ニコニコ動画』を取り上げて,”オープンソースの概念を導入した創作活動”では,作品が急速な広がり方を見せる事や,アイディアの連鎖反応が頻発し,反応の前と後では全く違った作品になる事や,新しい楽しみ方が次々と発見される事を紹介した.
しかし,この考察は作品を”楽しむ側・作品を作る側”の視点であり,ビジネスモデルとしてイノベーションを引き起こすほど,革新的なものではなかった.(ニコニコ市場なんかで売り上げが伸びるかもしれないけれど)
そこで今回は,このオープンソースの概念を導入した創作活動を,ビジネスとして利用できないのか?といったことを,ニコニコ動画で絶大なる人気を誇っている”アイドルマスター”に着目しながら,考えて行きたい.
楽しみ方を作り出す
アイドルマスターは,ニコニコ動画でのオープンソース現象ともいうべき創作活動を,もっとも効果的に引き起こし,かつ,利益として還元している作品であると思われる.
これを説明するために,”ドリルアーム”や”花粉防止マスク”に注目したい.
http://www.idolmaster.jp/marketplace/catalog03.html
アイドルマスターでは,こういったアクセサリや衣装をキャラクターにつけることが可能だ.もちろん,もっとまともなアクセサリもあり,それらを組み合わせてキャラクターに可愛い格好をさせることも,アイドルマスターのひとつの楽しみ方ではあったのだが,”ドリルアーム”や”花粉防止マスク”などのちょっと変わったアクセサリ*1が登場した当時は,”どうやって使ったらよいのか”良くわかっていなかった.(製作者サイドも単純な悪ふざけ程度のものだったはずだ)*2
しかし,ニコニコ動画のアイマスMAD製作者たちは,そのちょっと変わったアクセサリで,アイドルマスター 日本ブレイク工業 雪歩・春香・亜美 - ニコニコ動画やアイドルマスター 春閣下 洗脳・搾取・虎の巻 圧縮版 - ニコニコ動画のように,”人気のある電波曲とコラボして,悪意のこもったMADを作って遊ぶ”という使い方を考え出した.
こういったタイプのMADがいつごろから作られ始めたのか解らないが,とにかく,ニコニコ動画のアイマスMAD製作者の一部が,”変なアクセサリを使って遊ぶ方法”をネット上に公開し,アイマスプロデューサー全員で,このアイディア(遊び方)を共有した訳だ.
このアイディアが発見されたことで,300円,400円払ってでも,これらのアクセサリを手に入れようとした人が結構いたと思われる.
他にもこういった動きは,アイマスMAD製作者たちが,”おしゃぶり”や”スクールミズギ”のような,”本来のアイドルマスター”から逸脱したアクセサリや衣装でも,”上級者向け”なんてジャンルを作って,無理矢理楽しんでしまうところに見ることができる.
アイドルマスター Here we go!! やよい 私服赤ちゃん - ニコニコ動画
【アイドルマスター】 とかち天国系 ~約束の地~ - ニコニコ動画
ここで注目すべきところは,マイクロソフトは,”おしゃぶり”や”ドリルアーム”の楽しみ方を作りこんではいなかった点にある.所詮,話題性や一発ギャグ,程度にしか考えていなかったはずだ.
しかし,彼らは”上級者向け”と呼ばれるジャンルを確立させ,洗脳ソングとリミックスさせる楽しみ方を発見し,また,電波ソングのPVを作成して楽しむ方法を考え出したのだ.
こういったアイドルマスターとニコニコ動画をめぐる現象は,”サービス(楽しみ方)をきっちり作りこまずに*3,ある程度の自由度を持たせた上で,後はユーザに任せてしまう”…といった,まさにWeb2.0的な広がり方をしていると見ることができる.
そして,そういったアイディアが生まれて,支持を集めることが,直接利益になるビジネスモデルになっているのだ.
市場が広がる可能性
とにかく,ニコニコ動画では,”本来想定していた楽しみ方”以上の楽しみ方が日々発見されている(アイディアの連鎖反応).おかげで,”ドリルアーム”や”おしゃぶり”なんていう,悪ふざけ程度の商品が売れた.そして,そういったアイディアの連鎖反応の結果,本来ターゲットではなかった市場まで開拓しつつあるのではないか?と考えている.
引き続きアイドルマスターのMADで人気のある”おっさんホイホイ”というジャンルで説明していこうと思う.
アイマスMADの”おっさんホイホイ”というジャンルは,アイドルマスターの素材を使って,懐かしさを共有しようとしている作品群のことだ.例えば
アイドルマスター 銀河鉄道765~エターナルファンタジー - ニコニコ動画
アイドルマスター 美希 背中ごしにセンチメンタル by ダムP - ニコニコ動画
ログイン - niconico
アイドルマスター 春香&あずさ トップをねらえ! by ダムP アイドルマスター/動画 - ニコニコ動画
なんかを挙げることができる.
これらは非常にうまい選曲であり,アイドルマスターに興味のない人でも,懐かしさのあまり,気まぐれに見てしまう質を持っている.斯く言う私もこの”おっさんホイホイ”に引っかかった人間の一人だ.
さらに,一度”おっさんホイホイ”に引っかかると,「他にはどんな懐かしい曲があるんだろう?」といった好奇心を抑えられなくなってしまう.
ここで面白いのは,”おっさんホイホイ”では,アイドルマスターそれ自身ではなく,懐かしさが消費されている点である.アイドルマスターは懐かしさを共有するためのツールとしての役割を担っている.
アイドルマスターそのものを楽しむ市場(本来のターゲット)以外に,今のニコニコ動画で懐かしさを求めている市場が,懐かしさを共有するために,アイドルマスターを使っている状況があると思われる.
それは,楽しみ方に自由があり*4,アイディアの連鎖反応が起こりやすい作品であり,さらにニコニコ動画という”遊び・楽しみ方を発表する場”があったからこそ,誰かの思いつき(アイディア),本来想定していなかった遊び方や,本来想定していなかった市場を,ネット上に不特定多数無限大存在する能動的な表現者たちが共有できたのだ.
表現者たちによる自発的な市場開拓
私がこのアイドルマスターが非常に優れていると感じる点は,とにかく自由であったことだ.
キャラクターの性格や関係性にも矛盾に近い(平行)世界を許容される自由があり,アクセサリや衣装や設定までも雑多に,なんの統一感もなく発表され,それらの解釈(遊び方から全て)が自由であり,もちろんゲームのシステム的にも非常に自由である.
こう書いてしまうと,”いい加減に作品(商品)を作りすぎている”感じすらするが,オープンソース現象が積極的に導入されてしまえば,むしろ良い効果を生むのだ.
もちろん,質の高いPV風のMADを作りやすい素材であった点も評価すべきだが,この自由(作品を作りこんでいない点)が,アイディア(楽しみ方・解釈)の連鎖反応を頻発させ,能動的な表現者による市場の自発的な開拓を可能にしたのだ.
こういった,能動的な表現者たちを巻き込み,楽しみ方・解釈などのアイディアをネット上で共有させ,能動的な表現者たちに,自発的に市場を開拓させていくといったビジネスモデルを,偶然であったにしても,完成させてしまったアイドルマスターに学ぶことは多いのではないだろうか?
参考
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070613/tbev.htm
http://www.yukan-fuji.com/archives/2007/03/post_8682.html