ムシウタはセカイ系から決断主義へ?

今回,お話するのは,ムシウタセカイ系から決断主義へ至るプロセスを描こうとしているのではないか?といった趣旨のものです.しかし,友人に聞いたところ,ライトノベルムシウタは,既に私の考えが適用できない事態になっているようで,早く書いておかないと,アニメ版ムシウタも私の考えとは違う方向に行ってしまいそうだったので,焦りつつ…


本題に入る前に,セカイ系決断主義といった言葉の意味を整理したい.というのも,この辺の言葉は訳のわからない解釈が多すぎて,時々混乱する恐れがあるからである.
まず,セカイ系(価値観の宙吊りに耐える人々)とは,高度消費社会において,ポストモダン化(いろいろな価値観が認めら,存在すること)した時代に,「どの価値観に殉ずればいいのか?」を選択できなかった人たち・敢えて選択しなかった人たち・選択しなくても平気だった人たちのことを纏めて指す.
これらは,宇野常寛氏の理解を借りるならば,「価値観を選択することによって他者を傷つけてしまうことを恐れた人」が引きこもりであり,「何かの価値観を選択せず,それでも常に議論し続ける人」が小林よりのりであり,「選択しなくても平気だった人」が動物化した人となる.
次に,決断主義は,そういったセカイ系(価値観の宙吊りに耐える人々)から,「究極的には無根拠でも,中心的な価値を選びなお」そうとした人々のことを指す.
具体的には,コードギアスや,DEATH NOTEなんかがそれにあたる.
以上の意味で限定したい.宇野常寛のように,飛躍しすぎて何を言いたかったのか判らなくなるようにはしない.(よって宇野常寛氏の理解はこれ以上持ち込みまない)

セカイ系から決断主義者へ

ムシウタのストーリーはwikiでは,以下のような説明がなされている.

―――“虫”。
希望や願望や欲望が飽和しやすく、時に彼らが生きる目的そのものともなる、さまざまな≪夢≫を抱いて生きる少年少女達。
その夢が自らの器から漏れ出すほど大きく、抑えきれなくなった時、いずこからか現れて夢を食らい様々な物を奪っていく代わりに、望みもしない強大な力を与える昆虫に似た超常の存在、“虫”。
“虫”に寄生された者たちは「虫憑き」と呼ばれ、(中略)人々の間で差別と恐怖の対象になっていた。
ムシウタ - Wikipedia

この説明では,虫憑きになる条件は「夢が自らの器から漏れ出すほど大きく、抑えきれなくなった時」だとしているのだが,アニメ版ムシウタでは,今のところ,虫憑きである人間の”夢”に共通している点がある.(”夢”が何であるかが解っているのは,主人公とふゆほたる,そしてレイディーだけであるので,彼らだけで虫憑きになる”夢”の条件を考える)
それは,主人公とふゆほたるは「自分の居場所を探す」といった夢を,レイディーは「虫憑きの居場所を作る」といった夢を持っており,どちらも”アイデンティティを確立する”ことを”夢”見ている点である.
とすると,この”アイデンティティを確立する”といった”夢”を持つことが虫憑きになる条件ではないか?と読むことができる.


そう考えて,さらに,上述したセカイ系決断主義での,”価値観を選択する”といった行動を,アイデンティティを確立する”と読み替えると,虫憑きになってしまったことで(なる前からでもいい),社会に自分たちの居場所がなくなってしまい,セカイ系アイデンティティがないという宙吊り状態)となってしまった彼ら(虫憑き)が,努力して,究極的には無根拠でも,自分の居場所(アイデンティティ)を獲得する,といったセカイ系から決断主義者へ至るプロセスのメタファーとして見ることができるのではなかろうか?

”一般の人々は知らない”という設定

実は,この考え方を適用すると,こういった世界感(?)の問題を解決することができる.


こういった虫憑きやら超能力者やら魔法使いやらが登場し,かつ,舞台が近未来,若しくは現代の場合は,大抵,そういった存在は,”一般人は知らない”といった設定であることが多い.
しかし,上述してきたことを無しで考えると,こういった設定の作品で,ぽこぽこぽこぽこ,虫憑きだとか,超能力者だとか,魔法使いだとかが登場してくると,「そんなに現れちゃ,秘密を守れないだろう!」とツッコミを入れたくなる.
ムシウタでは一応

“虫”に寄生された者たちは「虫憑き」と呼ばれ、公には存在しないとされているにも拘らず、もはやその単語を知らない者はいない。目撃証言や虫憑きのものと思われる異常現象は年々増加し、噂の範疇から抜け出ていないにもかかわらず人々の間で差別と恐怖の対象になっていた。
ムシウタ - Wikipedia

のように,「虫憑きという単語はみんな知っているけれど,噂の範疇を超えていない」という微妙な設定にしてあるが,2,30万人ぐらいの街で,5人も10人も虫憑きが登場したり,しかも同じ学校に,同じ学年で何人も登場しだすと……
少なく見積もって,10万人に1人の割合でそういった能力者が出現したとしても,100万人の都市には10人,1億人で1000人,60億人で6万人…がいることになる.しかも,管理できそうも無い,発展途上国とか,治安の悪そうな地域とかにも現れる可能性がある.*1
こうなると,虫憑きや超能力者や魔法使いの存在をひた隠しにすることは難しいのではないだろうか?


しかし,高度消費社会で,かつ,ポストモダン化した地域での悩み(アイデンティティを確立する)が主題であり,それがトリガーとなり,虫憑き(超能力者)になるのだとしたら,出現する地域や人口をある程度抑えることが可能だ.
何故なら,村社会や共同体的なものが残っていて,「自分は将来,親の畑を継ぐ」や”信じるもの”や”殉ずるべきもの”といった価値観がある地域では,”セカイ系(価値観の宙吊り状態)”と呼ばれるような人々が現れないので,虫憑き(超能力者)は出現しないからだ.
これならば,日本でも農村部を除くことができるし,アメリカでの虫憑きの出現も,沿岸部ぐらいに限定できるし,欧州でも出現する地域を,ある程度限定できる.人工的に多くても,密集していて,管理する範囲は狭くてすむかもしれない.少なくとも,アフリカの少数民族に,虫憑きが出現したり,インドや東南アジアに出現したりはしないだろう.

*1:6万か…結構少ないなw