ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』

現在ニコニコ動画で行われているオープンソース現象ともいうべき創作活動について書きます。ニコニコ動画に対して否定的だったり、関心が無い方にも理解できるように書くつもりであります。できるがぎり頭で面白さが理解できるように紹介します。


オープンソースがオタク文化に齎す可能性 - WebLab.otaで、現在のオタク文化における新しい作品作りの形として、オープンソースの概念を導入した創作活動があるのではないだろうか?という考察をした。
そして今回はニコニコ動画でムーブメントと化している*1組曲『ニコニコ動画』”を題材として解説したい。


組曲『ニコニコ動画』”とは、ニコニコ動画(β、γ)で有名な33曲がユーロビート風にアレンジされてできたメドレーであり、以下(一番下)に示す曲で構成されている。(組曲『ニコニコ動画』 - ニコニコ動画

この”組曲『ニコニコ動画』 - ニコニコ動画”は見ていただければ解ると思うが、音源だけで、動画も無いし、歌詞も無いし、歌も入っていない。この状態の動画がアップロードされたのが記録を見る限りは2007年6月23日である。
そしてこの不完全な状態*2でアップロードされた動画をウェブ進化論*3でいうところの”素晴らしい知的資産の種”であったとし、アップロードされることにより、”ネット上に無償で公開された状態”になったとして、ニコニコ動画中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びついた…のが今回ニコニコ動画で行われたオープンソース現象だと私は理解している。


先ず、この動画が発表された後、彼らは同時多発的に『動画をつける』、『歌詞を考える』、『歌う』といったそれぞれが得意とする創作活動を開始した。

などなど多くの作品が発表された。そうした玉石混合の有象無象が発表される中、『歌う』という活動をされていた人の中から、玉が抽出され始めた。この”玉の抽出”もコメントや再生数、マイリストへの登録数などを基準としたWeb2.0的な抽出方法で行われた。(以下に抽出された玉のいくつかを示す)

ここで面白いのは、フーミンやガチ姉、内緒妹などの名前もネットの不特定多数無限大に存在する人々が勝手につけたところだ(題名から連想されるものや、声質などから付けられた)。彼女彼らのキャラクター付けすらオープンソース的な形で作られていった。


多少話が前後するが、上述した原曲?の組曲『ニコニコ動画』に入っている曲の選定も、組曲『ニコニコ動画』を作った個人では無く、ニコニコ動画全員の総意による選定であったように思うし、そうでなければ、これほどのムーブメントにならなかったであろうことにも注目すべきだと思う。


話を戻すが、そうして”玉”として認知された彼らを、ネット上の誰かがリミックスして発表した。(個々で歌われている組曲『ニコニコ動画』を編集したもの)

おそらくリミックスとして発表された第一弾はこれである。これを受けて二日後には

がまたネット上の誰かによって発表された。このバージョンではまずゼブラ、フーミン、内緒妹、ガチ姉、ニコ姫というキャラクターを固定化させた。おそらく顔も知らないであろう彼らをSDキャラで登場させている。
そして、この動画のコメントに多くのリクエストが寄せられて*4

が発表された(これは上記と同一人物)。このバージョンでは上述したキャラクターに追加して、いさじとReのキャラクターが固定化された*5
(今後もしかしたら*6、SD化し、キャラクター化された彼らをネタに同人誌を描いたりするひとが出てくるかもしれない。)
ここで注目すべきは、名前を付けたり、キャラクター化させたりすること(もちろんリミックスしたりすることも含める)を当事者(歌っている彼ら)が要求したわけではなく、ネット上の不特定多数無限大に存在する人々の手によって自発的に行われた点である。これはインターネットを擬人化して、「誰かが要請した訳ではなく、インターネットの意思によって行われた」と見るべきかもしれない。*7


以上が現在ニコニコ動画で行われているオープンソース現象の全体的な流れである。
驚く無かれ、こうした組曲『ニコニコ動画』を中心とした一連の創作活動はたった一ヶ月の間に行われたことなのだ。
誰かがリーダーシップを発揮してまとめていった創作活動でもなければ*8、明確な目標があったわけでもないのに、これだけの創作活動が行われたことには純粋に感動できる。
(今回は素晴らしい作品ができたかどうかは問題にしない。製作者のモチベーションやアイディアの連鎖反応とも言うべき現象を目の当たりにできた喜びである。)

背筋をゾクゾクさせるような興奮を味わってしまった。(中略)創造の結果だけでなく過程を共有することによって参加者が互いに触発し合い、これまでに無かったもの、素晴らしいものを作ることができるのだ。それはまた、無数の凡人が互いに思考を共有し、足りない部分を補い、アイディアの連鎖反応を起こすことにより、より大きなインパクトを(大げさに言えば)文明に与えることを可能にするのである。これまた大げさな言い方をすれば、より多くの人に、「自分の生きた証」「自分のいなくなった後に残るモノ」を残す道を開いた、と言っても良いかもしれない。(中略)
プロジェクトに参加した人々も、自分の貢献したアイディアが大勢の命を救う製品に、まるでジグゾーパズルが少しづつ出来上がるようにはまり込んで行く感覚を味わったはずである。
Sotto Voce: Whereness and Whatness: Open Source Everywhere


いろいろ批判めいた文句は言えるわけだが、少なくとも”新しい創作活動”が行われているのは確かだろうと思われる。新しい創作活動であるが故に不完全な部分も多いが、それでも私は応援していきたい。


続き:続ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 オープンソースコンテンツ - WebLab.ota

組曲『ニコニコ動画』

曲目(とアーティスト)リスト

組曲『ニコニコ動画』 - ニコニコ部



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ニコニコ動画とライセンス - WebLab.ota
組曲『ニコニコ動画』の系譜 - WebLab.ota
参考
組曲「ニコニコ動画」まとめ: ニコニコ動画まとめサイトすみれや

*1:もうムーブメントといっても良い気がする

*2:ある種完成されてはいるのだが、あえて不完全であったとさせてもらう。これは作者を冒涜するような意はない

*3:「何か素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開されると、世界中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びつくことがある」(ウェブ進化論

*4:この場合ニコニコ動画で書き込まれるコメントは感想や批判といったものではなく、創作上のアイディアであると見たほうがよい。コメントすることにより、誰もが創作活動に参加できるのである。

*5:いさじは既に固定化していたけれど

*6:もしかしなくてもやりそうだけどw

*7:「グーグルの連中に際立つ特徴は、インターネットを擬人化して話すしゃべり方ではないかな。こういう姿になりたいという意思をインターネット自身が持っている。自分たちはその意思に導かれて技術開発をしている。彼らの言葉の端々からそんな雰囲気を感じる。しかもそのことを皆、誇らしく思っている」(ウェブ進化論

*8:「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央になくとも、解決すべき課題(たとえそれがどんな難題であれ)に関する情報が共有されるだけで、その課題を次々と解決されていくことがある」(ウェブ進化論