ニコニコ動画とライセンス

前回、ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』 - WebLab.otaニコニコ動画で行われている”新しい創作活動”の例として組曲『ニコニコ動画』を挙げて解説し、オープンソースの概念を積極的に導入した創作活動では、ネット上に存在する不特定多数無限大に存在する人々の”アイディアの連鎖反応”が頻発しムーブメントを成すのでは無いか?」という考えを示唆した。


前回の記事に対して、はてなブックマークのコメントで「ニコニコ動画で話題になったことのある作品(エアーマン陰陽師など)も組曲『ニコニコ動画』と同じ過程で創作されたのではないか?」という指摘をもらった。またトラックバックにも

私が研究対象としている「アスキーアート」も、2chという掲示板コミュニティの中で生まれ、成長していった「オープンソース文化」です。
「オープンソース文化」には、コミュニティが必要という仮説。+クリエイティブ・コモンズ : 犬が眠った日

といった意見をもらった。
これらの指摘も含めて「いつ頃からオタク文化オープンソース的な創作活動がなされたのか?」という問題は考察する余地が十分にあると思っている。
しかしニコニコ動画組曲『ニコニコ動画』以前に話題となった作品に関しては、組曲『ニコニコ動画』と比べて”アイディアの連鎖反応”という点で説得力に欠けているように思う。
元ネタに対して動画を付けたり、編集したり、歌詞を考えたり、歌ったりする創作活動に関しては共通しているが、さらにそれらの作品をマッシュアップ*1して新たな作品を作り上げたり、歌っている彼らをキャラクター化(SDキャラ化)させるといったアイディアの連鎖反応は、組曲『ニコニコ動画』で説明したほうが理解がよいと思われるからだ。組曲『ニコニコ動画』は、エアーマンなどで行われた複数の作品をマッシュアップした”カオス”といった作品や、歌っている彼らをキャラクター化させる手法(名前を付けたりする程度だったように思う*2)を洗練させた形だと理解するのが良いかもしれない。
(ついでに組曲『ニコニコ動画』SDキャラ化されたゼブラやいさじ、内緒妹などは同人誌上で使われる可能性が十分考えられるし、JAMProjectを模したNicoProjectなんて動きも存在し、まだまだ組曲『ニコニコ動画』の”アイディアの連鎖反応”は続くように思う。)
しかし今回は「いつ頃からオタク文化オープンソース的な創作活動がなされたのか?」という問題について考察しない。*3

オープンソース現象とは

今回考えたいのは、またはてなブックマークのコメントからだが

id:jindai陰陽師は違うの?違法アップロード(だよね?)をオープンソースって言っちゃうのもすごいな。ライセンスが重要なんだと思ってたけど。まぁ、創作性は否定しないけどね…。』
id:pukadaエアーマンの方が早いし著作権真っ白だから優れていると思う』

という指摘についてである。
エアーマン著作権真っ白って訳ではないと思うし*4 *5、またオタク文化の違法性についても多くのところで考察されているし、今更考えるのも徒労に終わってしまいそうな気もするのでまたの機会に譲るが、著作権に対する指摘は重要だと思われるので、今回は著作権やライセンスについて考えて行きたい。


前項で”オープンソース現象”という言葉を使ったり”オープンソースの概念”といった言葉を使っていたのは、今まで話題にしてきた創作活動は厳密にはオープンソースでは無いからだ。*6 *7
ここで云う”オープンソース現象”とは度々引用しているがウェブ進化論でいうところの

「何か素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開されると、世界中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びつくことがある」ということと「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央になくとも、解決すべき課題(たとえそれがどんな難題であれ)に関する情報が共有されるだけで、その課題を次々と解決されていくことがある」

…というまさに現象なのである。よってソフトウェア以外にも適用できる概念だと私は思っている。

ライセンスは必要か?

しかし彼らの指摘するように、著作権も含めてオタク文化における『オープンソースの定義』や『ライセンス(使用許諾条件)』をそろそろ考えてもいいのでは無いか?とは思う。
オープンソースの定義であれば

  • 1. 自由な再頒布ができること
  • 2. ソースコードを入手できること
  • 3. 派生物が存在でき、派生物に同じライセンスを適用できること
  • 4. 差分情報の配布を認める場合には、同一性の保持を要求してもかまわない
  • 5. 個人やグループを差別しないこと
  • 6. 適用領域に基づいた差別をしないこと
  • 7. 再配布において追加ライセンスを必要としないこと
  • 8. 特定製品に依存しないこと
  • 9. 同じ媒体で配布される他のソフトウェアを制限しないこと
  • 10. 技術的な中立を保っていること

オープンソース - Wikipedia

のように、ライセンスであれば、X11 のライセンスのように

の条件の下でソフトウェアの使用、複製、改変、(複製物または改変物の)再頒布を認めている。
参考:オープンソース - Wikipedia

といった基準や、クリエイティブ・コモンズのように

クリエイティブ・コモンズ、他の人々が土台にしたり共有したりするのに使えるクリエイティブな作品の幅を広げることを目的に活動しています。クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
クリエイティブ・コモンズのライセンスは,完全な著作権保持と完全な著作権放棄の間の中間層を埋める役割を果たします.具体的には,コンテンツに対して著作権を保持しながら一定の自由を事前に許諾している事を,分かりやすく表示することでより自由な著作権ルールを実現し,より豊かな情報流通と文化・科学技術の発展をサポートします.http://www.creativecommons.jp/learn/

といった方針を立てて、アイコンを付けるだけで、作品を『非営利(営利目的で利用してはならない)』にしたり『改変禁止(このアイコンを付けなければ自由に改変してもよい事になる)』にしたりできるようなライセンス…


現状のままでは、企業や既存の作品を元ネタとしない”ニコニコ動画オリジナル”な作品が発表され、それによってオープンソース現象が起きた時に、”オリジナルの発表者””過程で関わった製作者(オリジナルの発表者ではない)”著作権を主張して、他の人々の創作活動の障害になる恐れがあるし、以前2chで問題になったことがあるがギコ猫騒動1 - 連載物の書庫のように企業絡みの騒動が起こるかもしれない。
そういった事態を未然に防ぐためにも、また、企業が『表示(作品を創作した人(著作者)の氏名、作品のタイトルなど、作品に関する情報を表示しなくてはならない)』や『非営利(営利目的で利用してはならない)』などの著作権のみを保持するだけで、改変可能な状態で作品を発表するといった展開も望めるかもしれない。これにより今までは見て見ぬ振りだった二次創作を含めたオープンソース現象を、企業が積極的に起こせるのではなかろうか?


クリエイティブ・コモンズオタク文化にそのまま適用するのも無理があると思うので、問題点を洗い出して、オタク文化における創造的な作品に柔軟な著作権を定義するライセンスを考えても良いのではないだろうか。
そんなことを考えさせられた。


続き:続ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 オープンソースコンテンツ - WebLab.ota



参考
「オープンソース文化」には、コミュニティが必要という仮説。+クリエイティブ・コモンズ : 犬が眠った日
Wikipedia:方針とガイドライン - Wikipedia
http://ukai.org/wiliki/wiliki.cgi?%A4%DF%A4%F3%A4%CA%A4%CE%B9%CD%A4%A8%A4%BF%A5%AA%A1%BC%A5%D7%A5%F3%A5%BD%A1%BC%A5%B9&l=jp
クリエイティブ・コモンズ - Wikipedia

*1:リミックスしたりすることを指す

*2:自己プロデュースによるキャラクター付けは除外したい。あくまでオープンソース的に付けられたキャラクターに注目する

*3:考えがまとまればしてみたいが、いつになるかわからないし、検証不可能に思えるのでやらない。誰か考察している人がいれば教えてもらいたいし、検証してくれる人がいたら是非連絡ください

*4:エアーマン自体に著作権あるんじゃないか。ロックマンにも著作権あるだろうし…著作権については詳しく知らないけど

*5:id:myrmecoleon >「エアーマン自体に著作権あるんじゃないか」詞と曲は分離できるし,キャラの名称に著作権は発生しないので,曲・詞ともにせら氏のみに著作権あり。また氏は状況を知ってるはずだから黙示の許諾が成立かな。(はてなブックマークより)

*6:所々でオープンソースと書いてしまったかもしれない。まさか自分でもここに議論が及ぶとは思っていなかったからだ。

*7:そうだよな〜元々ソフトウェアのライセンスだからな〜