オープンソースがオタク文化に齎す可能性

Web2.0とオタク - WebLab.otaでも示唆していたが、今回はオープンソースという現象がどのようにオタク文化と関わりあっているのかをお話します。

オープンソース現象

オープンソース現象とはオープンソース(OSS)とは - IT用語辞典にあるように

ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを、インターネットなどを通じて無償で公開し、誰でもそのソフトウェアの改良、再配布が行なえるようにすること。また、そのようなソフトウェア。

という説明がよく行われる。しかし一般には、”無料で公開・再配布”という部分ばかりがフューチャーされてしまっているし、そう考えている人の方が多い。wikipediaでも

日本においては「オープン」「ソース」という語感から受ける印象が一人歩きしたためか、ソースコードが無償で公開されていることを基本とした様々な定義(のライセンス)に「オープンソース」という表現が使われている

と苦言を呈しているほどである。しかしこの無料公開・再配布はオープンソースの本意では無いし、本稿で注目するところでも無い。今回注目するオープンソースとは、梅田望夫ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まるでいう

「何か素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開されると、世界中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びつくことがある」ということと「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央になくとも、解決すべき課題(たとえそれがどんな難題であれ)に関する情報が共有されるだけで、その課題を次々と解決されていくことがある」

…という、まさに現象についてである。

Web2.0と通ずるところもあるのだが、『ネット上に不特定多数無限大存在する能動的な表現者たちを巻き込む製品開発』が本意なのである。
こういった革命的とも思える、製品・商品開発がネット上で行われ、LinuxMozilla Firefoxなどの優れた功績を既に挙げている。
Linuxで行われたオープンソース現象とは、「ネット上で”OSを作ろう”と呼びかけた結果、世界中のプログラマがこのプロジェクトに自発的に参加し、メモリ管理やファイル管理、ネットワーク構築技術などの難題をあっという間にネット上で解決し、無料で使えるOSを作ってしまった」というムーブメントのことを指す。Linuxの開発は誰もが自由に参加でき、公開されているソースコードに直接手を加えて、改良したソースコードを公開する…という形でもよいし、ネット上で行われている議論に参加する…という形でもよい。

オープンソース現象とオタク

そしてオタク文化の中でも、こういったオープンソース現象が既に行われている。
ニコニコ動画や一部ブログや掲示板などで、未完成の状態の作品をウェブ上に公開し、それを第三者がより完成に近い形に修正して、またウェブ上に公開するといったサイクルで、作品を完成させようという動きが随所で見られる。
その未完成な作品を通して、ウェブ上の見ず知らずの他人が協力し合い、そして協力を求める対象は、仲間内や限られた世界ではなく、ネット上に存在する不特定多数無限大に対してなのである。
このオープンソース現象とも云うべき状況が、最も頻繁に行われているのは『ニコニコ動画』であると思う。


ニコニコ動画では、ある人が線画*1の状態で白黒のアニメーションを作りニコニコ動画にアップロードすると、それを見た第三者が「着色は自分がしよう」と名乗り出たり、勝手に着色して、カラーのアニメーションにしてニコニコ動画にアップロードする。さらにそれを見た第三者が音楽を編集して、音楽付のアニメーションになる*2。このようなサイクルでアニメーションが作られる場合がある。
また、彼らの作成したMADやムービーには最後に「制作協力:ニコニコ動画のみんな」や「提供:アドバイスをくれたおまいら」といった謝辞が付けられる場合が多い。この謝辞は物書きやクリエイターが社交辞令的に云うものではなく、もっと実存的なものである。特にニコニコ動画では、動画に対するコメントを手軽に書き込むことができるし、またそのコメントも公開されるので*3、そのコメントに対する反論や支持をネット上のみんなですることができる。コメントでの話題は、単純な感想からテクニック的な問題やセンスの問題など多岐に渡り、それら制作上の問題をコメントの中で議論し解決策を導き出したりしている。そして動画製作者側も次に動画を作る場合に、十分に彼らの意見を取り入れ動画を作成する。ニコニコ動画ではコメントをしている『一見唯の受動的な作品の消費者』も、かなりアクティブに作品作りに参加していると見ることができるし、彼らは動画製作者を含めて”一緒に作っている楽しさ”や”一緒に成長する喜び”を共有している節がある*4

オープンソースが齎す可能性

以上のようにオープンソース現象はオタク文化の中で、ある程度の量行われてはいる。しかし未だムーブメントや作品作りに革命を齎すような状態に至ってはいないと思われる。
一刻も早く『作品の種をネット上に公開して、ストーリやキャラクター、設定作りから、果ては音楽や、ノベル化やコミック化、アニメーション制作という難題をも、オープンソース現象を積極的に引き起こすことで解決し、作品として成立させるようなムーブメント』を起こして欲しい。何故なら、もしオタク文化が今までWeb2.0とオタク - WebLab.otaサービスとしての物語〜変質する物語〜 - WebLab.otaロングテールで考えるオタクたち - WebLab.otaで考察してきたように、”ウェブ情報技術”とともに成長しているとして、さらに今後も『”ウェブ情報技術”とシンクロして進化して行くことが、オタク文化の進むべき道』だと仮定するならば、このオープンソース現象をニコニコ動画や一部のブログ・掲示板で展開しているだけでは勿体無いと思うからである。
もちろんそういった一部ウェブ上からでも、オタク文化全体に波及するようなムーブメントを引き起こすことは可能であろうから、今後『オープンソース現象』を大々的に取り入れた作品作りが行われることを切に希望する。




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*1:色の着いていない絵

*2:ほとんどの動画には音楽が付いているので、この場合リミックスや編集作業だと思ってくれればよい

*3:ムービー内にリアルタイムで記録される。この記録のされ方は特殊なので説明するのが、難しい。できればニコニコ動画に行って見てください。

*4:事実私もそう感じる時がある