「あたし彼女」はすごい

http://nkst.jp/vote2/novel.php?auther=20080001
さきほど全部読みきったんだけど,感想をば
(別に「感動した!」とか言わないけど)
(できるだけネタバレはしません)

文体がすごい

アタシ
アキ
歳?
23
まぁ今年で24
彼氏?
まぁ
当たり前に
いる
てか
いない訳ないじゃん
みたいな
http://nkst.jp/vote2/novel.php?page=1&auther=20080001

すげぇ……前衛すぎる.この形式で429ページも書ききったことがもうすでにすごい.
たぶん,ライトノベルが世の中に現れた時のショックってこんな感じだったんだろうな…とか思ってしまう.

ストイックな形式がすごい

文体も徹底的に上記のスタイルを貫き通しているところもストイックだけれど,こんなに崩れた文章・文体なのに

(笑)
w
///

といった記号を一切使わない.絵文字も,劇中で出てくるメールの文面でしか使わない.
「///」なんて今じゃライトノベルにだって使われているのに,出てこない.文化圏が違うからだろうけど.
「『あたし彼女』は日本語じゃない」なんて言ってる人がいるけれど,その人にとってライトノベルはどういった扱いになるんだろうか?上述した記号使いまくってるし,阿智太郎とかおかゆまさきも相当だと思うんだけど…

演出がすごい

この特殊な文体を使った演出も面白かった.その演出を単純化するとこうなる.

<演出なし>
「待っててくれる?」
と彼が言った
「待ってるわけないじゃん」

<演出あり>
「待っててくれる?」
と彼が言った
「待ってる
わけないじゃん」

これを携帯というメディアでスクロールしながら読むと全然違うのが分かってもらえると思う.
こういった演出をポイントとなるところで使ってくる.
普通の文章でこの演出を使うと悪目立ちしてしまうが,この特殊な文体の中にあると目立ちすぎず,いい具合に機能する(隠すなら森の中).

80年代臭がすごい

この作品に出てくる男はすごいバブリーな人である.田舎出のくせに,26歳ぐらいで高級マンションに住んで,自分の女にはいいものを喰わしてやり,女に呼ばれれば車を飛ばして向かえにいき,ねだられれば何でも買ってあげるような野郎である.
女の方も,岡崎京子作品に出てくるような,男取っ替え引っ替えして,「今が楽しいのが正義!」主義者で,中絶してもなんとも思わないようなビッチである(岡崎作品であれば,これに加えて薬やって,整形して…ってビッチだけど).
あと,

アタシ
アキ
歳?
23
まぁ今年で24
彼氏?
まぁ
当たり前に
いる
てか
いない訳ないじゃん
みたいな
彼氏は
普通
てか
アタシが付き合って
あげてる
みたいな
付き合って5ヶ月
彼氏の名前
トモ
歳?
31歳
多分
顔?
まぁ普通
人より目はデカイかな?
性格?
まぁ普通
アタシが
変な男と
付き合う訳ないし
みたいな
http://nkst.jp/vote2/novel.php?page=1&auther=20080001(プロローグ全文引用)

これってほとんどAVの最初の方にある,AV女優と男優の会話だと思う(実際この女はAVに出てたって不思議じゃないぐらい性が乱れとるけどw).
しかも80年代にあったと言われる,自己表現としてAVに出ていた類の女優の語り口に似ている気がする.

残念だったところ

(以下ネタバレを含みます)
基本的に大絶賛だけど,ちょっと残念だったところ

  • 男の内面描写はいらなかったよな〜
  • 私は岡崎京子世界に出てくるビッチが好きだから,前半の最悪な女だったころの主人公が好き
    • 後半あんなにエキセントリックだった主人公がどんどん普通の女になっていくのが寂しかった
  • なんで幸せなエンディングになるのかよくわかんねー
    • 男の内面描写があったせいで,非和解的に終われなかった感じがする.
    • 普通の女になろうとしたけど,結局自分が最低なビッチだということを自覚して,ダーク化してほしかった.
    • 後半普通の少女漫画(内容はレディコミだけど)を読んでいるようだった