マルチエンディングとアニメ ましろ色・恋チョコに至るまでの試行錯誤の歴史

マルチエンディングシナリオのゲームをアニメにする際の工夫についてと,今のトレンドみたいなもんを書く.
書く内容は下記な感じ.

従来型のアニメ化手法とその問題点:串団子型(KANON,東鳩)

KANON東映版2002年〜)とか東鳩(1999年)とかは,まさに串団子型のアニメであった.
主人公が,複数のヒロインを一人ずつ攻略していく……というマルチエンディングシナリオのゲームのアニメ化,そのまさに典型である.

特徴としては以下のような傾向が見受けられる.

  • 1ヒロイン,1話(複数話でも可)
    • 「誰々がヒロインの回」「担当回」なんて呼び方をされることが多い.
  • ターン制
    • 「1ヒロイン,1話」と同じだが,担当回のヒロイン以外のヒロインは必要以上に出張ってこれない.
    • ヒロイン同士で,「今私が主人公とイチャラブしてるんだから,邪魔しないでよね」「担当回が終わったんだから,おとなしく身を引きなさいよ」「担当回が来るまででしゃばって来ないでよ」という条約を相互に結んでいる.


この串団子型のアニメは,ゲームのシナリオをある程度維持でき,ヒロイン一人一人の魅力を十分に見せることができるという素晴らしい手法であったが
主人公が,一見親身に相談にのったり,アドバイスしたり,面倒くさそうなことに付き合ったり,愛のセリフを吐いたり……
毎話違う女を取っ替え引っ替えしながら,薄っぺらい行動を繰り返すことによって
「いくらなんでも不道徳すぎんだろ」という印象を拭えない点に問題があった.
毎回ヒロインのトラウマを解消したり,お悩みを解決したり,いい雰囲気のところまで行って,女に告白同然のセリフを吐かせておいて,次の話では振り返りもしない……
って展開で,2〜3人なら許せるが,5〜6人串刺しにしだすといくらなんでもやりすぎだろ?ってなるところに問題があった.

主人公の負荷分散 主人公の分割というアイディア:キミキス,俺たちに翼はない

で,主人公の過負荷な状況(一人で,5〜6人を攻略するという状況)を解消するために生まれたのが,「主人公の分割」というアイディアである.
典型的なのは,キミキス(2007年)である.
キミキスでは,相原 光一(ゲーム版標準・ドラマCDでの主人公名)という主人公が,アニメ版では,真田 光一と相原 一輝(元の名前を継承している)という二人の主人公に分割され
攻略するヒロインを分担する形を取った.

これは先の,串団子型のアニメの利点を踏襲しながら,その問題点だけを解消するという妙手であった.
(この手を使えるゲームにはそれなりの制限がある.しかし,その制限さえクリアできれば有効な手段である.)


また,俺たちに翼はない(2009年)も主人公の過負荷な状況を解消する手段を提示した作品として捉えることができる.
俺たちに翼はないでは,主人公の人格を分割することで,キミキスと同様に1人の主人公(人格的に)が攻略するヒロインの数を減らしている.(これは原作ゲームからそうなのだが)

オムニバス形式:アマガミヨスガノソラ

串刺しにするから,不道徳的なのではないか?という至極まっとうな思考から生まれたのが,アマガミ(2010年)やヨスガノソラ(2010年)である.
キャラクターを操作する(人格を操作する)という形からシナリオの形式・時間を操作することで,負荷を分散させようというアイディアである.

個人的にこの方法は,想像していた効果が出ず,「なんて外道な主人公なんだ……」という印象が拭えなかった.

解脱する主人公:祝福のカンパネラ

続いて,過負荷にも耐えられる主人公を作るという形でこの問題に向きあった作品が,祝福のカンパネラ(2010年)である.
この作品では,インポ(勃起不全)なのではなかろうか?と思わせるほど,性的に枯れた人物を主人公に据えることによって,
性的に迫ってくるヒロインが居ようと動揺せず,紳士に対応し
落ち込んでいる人(男女問わず)がいれば,全力で口説き(でも下心は無い)
何人言い寄って来ようと,罪悪感を覚えない……そんな超絶イケメンインポ野郎を主人公にした.

ある種の逆転ホームラン(負荷分散という観点ではなく,主人公を強くするというアプローチ).

【トレンド】ターン制の廃止と戦略の高度化:ましろ色シンフォニー,恋と選挙とチョコレート

で,最近のトレンドとしては,主人公が複数のヒロインを攻略するという視点ではなく,複数のヒロインが主人公を篭絡する……という方向にシフトしてきているのではなかろうか.
その一例が,ましろ色シンフォニー(2011年)であり,恋と選挙とチョコレート(2012年)ではなかろうか?
担当回,ターン制という法則を捨てて,すべてのヒロインが臨機応変に,相手(ライバルヒロイン)の出方を見ながら行動したり,高度な駆け引きを繰り返した末に,一番優れていたヒロインが主人公をものにする
……という形に.


例えば,ましろ色シンフォニーの第7話の紗凪がココアを差し入れるシーン.

このシーンでは,主人公に素直な態度を示せない紗凪が,まず(左図) みう先輩にココアを差し入れする.その後,うまくすれば主人公にもココアを渡して好感度を上げたいと思っていたが
(中央図) それに気づいたみう先輩が主人公に飲みかけのココアを渡す……という割り込みを入れて,紗凪のイベント発生を阻止して,(右図) 結果,一本余ったココアを愛理と飲む(紗凪惨敗,みう先輩圧勝)という流れになっている.

また,同7話において,(左図)紗凪が超頑張って,自分のことを呼び捨てにするよう主人公に強要したのに,(中央図)それを聞いたみう先輩は,(右図)のように主人公の肩にもたれ掛かり主人公を篭絡する……というみう先輩が圧倒的な優位をものにする.
こんな感じで,ましろ色シンフォニーという作品は,他のヒロインが一手打てば,それに対する対策の一手を打ち,敵(ライバルヒロイン)の動きを先読みした手を繰り出すなど,かなり高度な駆け引きを繰り返す作品であった.(他にもこういった駆け引きが散見された)


また,恋と選挙とチョコレートにおいてもその傾向が見受けられる.
4話の段階では,メインヒロイン(EDにメインで出てくるヒロイン=千里,美冬,未散,衣更,皐月)内で,敵であると認識しているのは

千里→美冬をもしかしたら警戒している
美冬→千里に恩があるので身を引いているが,実質ライバルと認識している.

という状況だけであったが,5話の下図により,衣更が美冬に補足され

千里→美冬(?) をライバルと認識
美冬→千里,衣更 をライバルと認識
衣更→なし をライバルと認識

第6話の下図により,千里が衣更に補足され

千里→美冬(?) をライバルと認識
美冬→千里,衣更 をライバルと認識
衣更→千里 をライバルと認識

第7話の下図により,衣更が千里と美冬に宣戦布告し,また,それに対して焦った千里はお風呂に押しかけてまで,主人公に迫ろうとする.

千里→美冬(?),衣更 をライバルと認識
美冬→千里,衣更 をライバルと認識
衣更→千里 をライバルと認識

といった感じで,ライバルが増えたことを認識すると,行動を起こしているように思える.
また,今後参戦が期待される,未散と皐月であるが,なんとなく動き出してはいる.

皐月は,姉が「早く本戦(千里,美冬のいる土俵)に早く行けよ!うかうかしてたら先越されるぞ!」って妹をけしかけているようにしか見えないし

主人公と皐月の関係を食品研究部として唯一認識しているのは,未散であって,彼女の動きも見逃せない.


みたいな?KANONの時代と比べると、ヒロイン勢がかなり積極的に動いている印象を受ける。