山内重保のアップと運動描写 夢喰いメリー

夢喰いメリーを山内重保から読む - WebLab.otaに続いて,山内重保分析第二弾.

カットの多さとかアップの多さとかに注目しながら見ていく.
「なんでアップにするの?」とか「なんで割るの?」って理屈を考える材料を提示できればいいなぁ〜.

運動描写

山内重保は,アップを多用したり,やたらとカットを割ったりする.


で,今回注目するのは運動描写.
例えば,
Kanon 第3話 山内重保コンテ演出)
これ,とか,
キャシャーン Sins 第15話 山内重保コンテ演出)
これとか.
まぁどっちも滑って転んだ・転びそうになったってだけのシーン.
これらのシーンを山内重保はやたらと割って,やたらとアップで撮る.


カットをざっと並べるとこんな感じに.
この一連のカットで特筆すべきは,「シーンの鍵となる運動をアップで撮り,分節的に見せる.そして最後に全景を見せる」ところである.
例えば,Kanonの例では
「躓く真琴(上段右)→バランスを崩す真琴(中央左)→倒れる看板→飛ぶカバン→倒れる真琴→見呆ける祐一→全景」
キャシャーンの例では
「滑る足→気づくリューズの顔アップ→完全にバランスを失うリューズ→飛び込むキャシャーン→踏ん張る右足→抱きかかえられるリューズ→キャシャーン顔アップ→全景」
カットを説明するだけで,このシーンの運動が全部分かる.

一瞬の出来事・混乱を表している?

で,この「シーンの鍵となる運動をアップで撮り,分節的に見せる.そして最後に全景を見せる」が何を表しているのか?について考えると……
一瞬の出来事であることと,運動に巻き込まれている本人が混乱している
ということを表しているんじゃないか?
実際,上述したキャシャーンのシーンでは,最後にリューズが,「変なのあなたに気遣われるなんて」っと言っていて,下段中央のキャシャーンの驚いたような顔アップも,「俺が他人を助けるなんて……」という驚きがあり,「無意識的に助けてしまった.あれ?俺なにやってんの?」みたいな混乱が含まれている.
(もちろん,リューズの滅びが思った以上に侵攻しているという驚きもあるのだろうが)


他にも
夢喰いメリー 第2話 山内重保コンテ演出)
も同じ原理原則が働いているように思う.
運動に巻き込まれている本人は何が起こっているのか分からないまま,足を縛られ,腕を縛られ,宙吊りにされて,全景が見える.

カットだけでの運動描写

で,いろいろ画像集めていると,カットだけで運動描写をしているシーンが結構あることに気づく.

Kanon 第3話 山内重保コンテ演出)
とか

夢喰いメリー 第3話 山内重保コンテ演出)
とか.
上図は,ほとんど動き無くて,「べちゃ」って音だけで倒れたことを表している.
下図も,倒れている途中の動きは無くて,イマジナリーライン越えの衝撃が倒れた衝撃を表していたりする.


カットだけで運動を懇切丁寧に分節しているので,動きを無くしても意味が通じてしまう.

おまけ 上下の逆転

山内重保コンテでときどき見ることができる特徴的なカットに,「1カットでの上下の逆転」がある.

とある科学の超電磁砲 第9話 山内重保コンテ演出)
これなんかは非常に分かりやすい.
他にも

キャシャーン Sins 第22話 山内重保コンテ演出)

夢喰いメリー 第3話 山内重保コンテ演出)
と,いろんなところで使ってくる.