id:aureliano氏の好みと今の漫画界に無いもの

id:aurelianoに対する質問状:「マンガ雑誌を面白そうに読んでいる大人を見かけると、面白さの感性みたいなものは疑ってしまう」と彼は言った - 撫肩い日々
世界は面白さで満ちている - 未来私考
オモロ・つまらんでしか語れない奴にゃ漫画の楽しみなんぞ理解できまい - 脳髄にアイスピック
http://manga.goraku-academics.org/mab/200811302311.html
http://d.hatena.ne.jp/y_arim/20081201/1228141044
なんかで今話題のid:aureliano氏の好みの分析というか,ツッコミをしてみようかなと思った.

オンリーワンの人が好き

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20081129/1227941427
ぼくは今、本当に読みたい思えるマンガというのがほとんどなくて、わずかに「へうげもの」と「テレプシコーラ」だけだ。

山田芳裕山岸凉子もオンリーワンの人である.
山田芳裕は,BSマンガ夜話なんかでも

BSマンガ夜話 第34弾のまとめ - WebLab.ota
後期のミケランジェロ(中略)ルネッサンス以前→パースじゃなくて,自分が強調したいところがでかい(中略)プリミティブアート

なんて評されているように,手塚以降の近代漫画の文脈から逸脱しているような人だ.
山岸凉子は,人間の暗部とか見ちゃいけないような部分を直感的に取り出すことのできる才能の持ち主で,この直感的な把握能力は諸星大二郎と並びで紹介されるほどの人である.

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20081130/1228031673
ちなみにこの前たまたま諸星大二郎の「マッドメン」を読んだらとても面白かった。

っと思ったらやっぱり諸星大二郎も好きなようだ.
諸星大二郎もまた,手塚治虫に「諸星さんの絵だけは描けない」と言わせるほどオンリーワンである.

革命的だったり暴力的だったりする人が好き

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20081130/1228031673
週刊少年チャンピオンは1979年頃が素晴らしかった。「ドカベン」「ブラック・ジャック」「月とスッポン」「マカロニほうれん荘」などが好きだった。

それから週刊漫画アクションの方は1988年頃だ。この時は確か「ボーダー」を筆頭に、柳沢きみお相原コージはるき悦巳江口寿史いしいひさいちなどが本当に面白いマンガを描いていた。この時の豪華さといったらなかったなあというのがぼくの感慨だ。

革命とか暴力ってのは,「革命を扱った漫画」とか「暴力的なシーンのある漫画」をさしているわけではなくて,革新的な何かをした漫画とか,作者俺節のコブしが回りに回っちゃってて,読んでるこっちが「うわぁ…」って引いてしまいそうな漫画とかそーゆー奴(?)のこと.
いしいひさいち

4コマ漫画を一本だけではなく数ページにまたがって描き、全体でも大きな起承転結をつけるという現代の4コマ漫画の手法を開拓した人物
いしいひさいち - Wikipedia

という偉業を成し遂げた人だし,柳沢きみおは少年漫画に初めて「ラブコメ」を持ち込んだ人だ.
そーゆー革新的なことをやろうといった意志を持った作者が好きなのである.


また「ボーダー」なんて,いしかわさんに

これはもう70年代の考え方なんだよね.70年安保を経てきてる人間の考え方なんだよ.80年それも86年までなってこれをテーマに持ってくる人間はいなかったんだけど
あのころでも「今時あちら側はいっくらなんでも恥ずかしいだろ」と思って読んでたんだけど

と言わせるぐらいに作者俺節のコブシが全開で回ってる漫画である.ちょっと違うけど,「マカロニほうれん荘」もそんな感じの漫画だ.
作者が「作品としてのバランス」とか「作品としてまとまったものを描こう」なんて考えずに,とにかく「言いたいこと」とか「面白いと思ってること」を紙に叩きつけて,それをそのまま雑誌に載せちゃってるタイプの作者も好きなのである.

自由な雑誌も好き

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20081130/1228031673
それから近代麻雀ゴールドが面白い時期もあった。「伝説の雀鬼」と「マルヒ牌の音ストーリーズ」は本当に興奮させられた。片山まさゆきが「ノーマーク爆牌党」を描いていた時期の近代麻雀オリジナルも、本当に輝いていたことがあった。

上の「革命的だったり暴力的だったりする人が好き」なんかとリンクするんだけど,「作者の好きなように描かせる雑誌」ってのも多分好きなんだろうと思う.
徐々に漫画が商売としてきっちりし出して,雑誌ごとに載る漫画とか買う読者が分化され出して,窮屈になり,そこから溢れたような作家を全部持ってきて,好きなように描かせるような自由な雑誌も好きなんだろう.
一時期エロ漫画がそーゆーことやってたし,のちに麻雀劇画雑誌がそーゆーことをやってた.

所感

書いてて思ったんだけど,id:aureliano氏が好みそうな漫画って今の漫画界には少ないかもしれない.


まず「オンリーワンの才能」ってのはそんな簡単に出てくるものではないってのはあるから除外するけど
革命的なことは,媒体として草創期・成長期には起こしやすかったかも知れないけど,漫画評論とかも成熟してきて,媒体として成熟期・壮年期を迎えつつある現状では難しい気がするし
暴力的な作品とか作者・雑誌ってのも,(たびたびBSマンガ夜話でも言われてるけど)現状では存在するのが難しかったりすると思う.
それは商業的にきっちり分化されちゃったってのもあるし,今特に漫画界はお金が無いから,そーゆーお金にするのが難しそうなモノは養えないってのもある.
関川夏央は,自由な作品が書けたのは「漫画業界が儲かっていたからで,その財産をどう使おうが自由だったという時代の産物だ」ってことを言っていた記憶がある)