ウェブ情報技術の視点からオタク文化を分析・解体 第一回まとめ

とりあえず今までにオタク文化の現状」オタク文化で起こっている現象」をウェブ情報技術の考え方や現象、要素技術と比較して分析できないか?という思いつきで
オープンソースがオタク文化に齎す可能性 - WebLab.ota
Web2.0とオタク - WebLab.ota
サービスとしての物語〜変質する物語〜 - WebLab.ota
サービスとしての物語2 - WebLab.ota
ロングテールで考えるオタクたち - WebLab.ota
と試行錯誤を重ねてきた。
(飛躍して、オタク批判なんかを展開することもあるけれど、現時点ではあくまで比較検討をしているだけで、オタク批判は仮の結論だと思ってください。本論とは多少ずれるが考えることのできないオタク(考えなくてもよいオタク) - WebLab.otaアマゾンの罪 オタク達の知的興味範囲の減少 - WebLab.otaでもウェブ情報技術とオタク文化を比較してみた。しかし、どちらかというとオタク批判の要素の方が強い。)
で、一応の区切りが着いた感じがするので、まとめがてらいろいろと考えてみようかと思う。


(以下まずWeb2.0の概略を説明します。)

Web2.0とは


この図は今話題のWeb2.0という概念とそれを構成している現象や要素をまとめたものである。
先ずこの図では、Web2.0を支える基礎技術・プラットフォーム(環境)としてチープ革命とインフラの整備があるとしている*1
チープ革命とは

ムーアの法則」によって下落し続けるハードウェア価格、リナックスに代表されるオープンソース・ソフトウェア登場によるソフトウェア無料化、ブロードバンド普及による回線コストの大幅下落、検索エンジンのような無償サービスの充実といったことがすべて含まれる。(ウェブ進化論

となり、インフラの整備とは「誰もが携帯電話を持ち、家には常時インターネットに接続可能なPCを持っている」といった状況や、「ブログやmixiなどで相互コミュニケーションが簡単にできる」といった状況が整ったことを指している。
そしてチープ革命・インフラの整備という基盤の上にWeb2.0の考え方」がいくつか取り入れられる。たとえば

情報を享受する側に対して根本的な信頼を寄せることにより、人間の知そのものを共有すると共に、それを相互に発展させて行こうとする志向(Web 2.0とは 「ウェブ2.0, Web2.0」 ウェブ ニーテンレイ, ウェブ ニーテンゼロ: - IT用語辞典バイナリ

であったり

開発やコンテンツの制作などにユーザが積極的に関わることによってサービスそのものを成立させる。(同ページ)

ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者として認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢(ウェブ進化論

といった信念や信仰のようなものを挙げることができる。そして、その上で”オープンソース”、”ロングテール”や”Web2.0的な製品開発”などの現象が起こっているとみることができると私は考えている。
(考え方や言葉が生まれた順番は違うが、「現状の理解」という点ではこの理解もまた妥当だと思う。)


オープンソース現象とは、Wikipediaリナックスで信奉されている

「何か素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開されると、世界中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びつくことがある」ということと「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央になくとも、解決すべき課題(たとえそれがどんな難題であれ)に関する情報が共有されるだけで、その課題を次々と解決されていくことがある」(ウェブ進化論

のことであり、ロングテールとは、Amazon.comに代表されるオンライン小売店で使われている

インターネット上での現象は、生起頻度の低い要素の合計が全体に対して無視できない割合を占めるという法則。少数の上位で全体の大半を占めるという、いわゆる「20:80の法則」に対するアンチテーゼで、ネット上での人々の行動の特徴を表す理論
ロングテールとは - IT用語辞典

のことであり、Web2.0的な製品開発とは、GoogleAPIを利用したはてなマップなどを代表的な例として挙げることができ

API(Application Program Interface)という開発者用インターフェースを提供することにより、不特定多数の能動的な表現者が新たなサービスを開発することができる点にあり、そしてこの新たなサービスの開発が、従来の企業の中での製品開発に比べ、圧倒的なスピードでかつ、低コストで進むところにある。
Web2.0とオタク - WebLab.ota

のことである。以上これらの図と説明で現在のWeb2.0に纏わる状況を一通り説明できる。
(このような現象が良いか悪いかは今回問題にしない。「オープンソースで作られているWikipediaは信用ならん!」とか「ロングテールみたいなセコイ商売はいかんな!」等の意見はいろいろあるが、良し悪しの判断は次の段階に行かないとできないことなので、今回は現状の理解で収めたい。)

オタク文化

以上のような現象を前提にして、オタク文化を見てみると以下の図のようになる。

説明すると、チープ革命はハイスペックのPCが安く手に入るようになったこと、そして良いアプリケーションが作られたことにより、動画(作品)の視聴だけでなく、創作活動が楽にできるようになったことを指している。PhotoShopや動画編集ソフトを使えば、昔では考えられないほどのクオリティの高い作品を自宅のPCで作ることを可能にしたことなどが例として挙げられる。
インフラの整備は、表現者YouTubeニコニコ動画やブログそして掲示板(お絵かき掲示板2ch)などのメディアを使えば、既存メディアに頼らなくても、作品をどんどん発表することのできる状況になったことを指す。
ここでいうチープ革命とインフラの整備は”表現の敷居が低い状況”と言い換えてもよい。


(”Web2.0の考え方”は上述したものとほぼ同じである。)


そしてロングテールは、表現の敷居が低くなり、圧倒的に増加した表現(作品)を消費できてしまう状況を指している。先細りし、特殊化し、蛸壺化した環境であっても、表現(作品)は誰かに見てもらえる環境を支えているのがロングテール現象であるとみることができる。(ロングテールで考えるオタクたち - WebLab.otaでは別の結論を出した)
オープンソース現象は、ニコニコ動画や一部ブログ・掲示板などで行われている

ニコニコ動画では、ある人が線画の状態で白黒のアニメーションを作りニコニコ動画にアップロードすると、それを見た第三者が「着色は自分がしよう」と名乗り出たり、勝手に着色して、カラーのアニメーションにしてニコニコ動画にアップロードする。さらにそれを見た第三者が音楽を編集して、音楽付のアニメーションになる
オープンソースがオタク文化に齎す可能性 - WebLab.ota

といった作品作りのライフサイクルを指している。また2chや一部掲示板で行われることのある、「線画で描いた絵をアップロードすると、ネット上の誰かがその絵に色を着けて再度アップロードし、またそれをネット上の誰かがより完成に近い状態に修正しアップロードする(参考:リトバススレがお絵描き板と化してる件 続き - 鍵っ子ブログ)」といった現象を指している。
Web2.0的な作品作りとは

上記の図のように、作品の要素(キャラクターや設定やストーリ等)をAPIと見立てて、それを組み合わせることで、同人誌を作ったり、コミック化やノベライズ、ゲーム化、アニメ化などのメディアミックスを実現する商品展開を指している。この考えは東浩紀が「動物化するポストモダン」でデータベース消費と名付けた現象と通ずるところがある。東浩紀は「動物化するポストモダン」で

オタク系市場は、その両者を連続して捉える消費者を組織的に育て、またそのような「関連商品」の氾濫を前提として規模を拡大してきた。その結果、いまや、個々の物語が登場人物を生み出すのではなく、逆に、登場人物の設定がまず先にあり、そのうえに物語を含めた作品や企画を展開させる戦略が一般化している。そしてこのような状況では、必然的に個々の作品の完成度よりもキャラクターの魅力の方が重要になるし、またその魅力を高めるためのノウハウ(萌え要素の技術)も急速に蓄積されることになる。

と述べている。私は

現在のオタク表現は受動的な作品の享受者とは別に能動的な表現者が存在し、かつその表現者を積極的に巻き込んでいくことが重要
Web2.0とオタク - WebLab.ota

であると認識している。



以上まとめ&現状理解を一応の終了とします。あ〜疲れた今回は…途中から何かいたのか覚えてなry
次稿からはもうちょっと批評めいたことを書いていこうと思う。

参考
CE Lab
「グーグルをどう語るか」を巡って(3) - My Life Between Silicon Valley and Japan
2007-06-01
フューチャリスト宣言の感想。 - 日々、とんは語る。
伊藤計劃『虐殺器官』 - logical cypher scape
http://www.u-gakugei.ac.jp/~oubei-se/animal.htm
2005-03-07 - 伊藤剛のトカトントニズム
今週の「日本の大衆文化論」 - 宮本大人のミヤモメモ

*1:主従が逆転しているところがあったりもするが、あえて解りやすく図解した。卵が先か鶏が先かという問題だと思ってくれてもよい