なかよしアニメから考察するプリキュア

1 目的

2004年2月1日日曜8:30から放送が開始された「ふたりはプリキュア」について“なかよしアニメ”という視点から検証し、プリキュアの歴史的な位置やその傾向などを提示していこうと思う.

ではまず「なかよしアニメ」の概要を少し説明しよう.

2 なかよしアニメ

「なかよし」とは、講談社発行の月刊漫画雑誌で、1954 年に創刊し現在にいたるまで小・中学生向けの名作少女漫画を多数輩出している雑誌だ.その「なかよし」に掲載されている漫画のアニメを総称して「なかよしアニメ」*1と呼び,古くは手塚治虫氏の「リボンの騎士」や,「キャンディ・キャンディ」(いがらしゆみこ)などの古典的名作がある.
1991年放送の「きんぎょ注意報」では青年層(ヲタク)からの支持も受け,以降「なかよしアニメ」は劇的にその本数を増やしてゆく.「美少女戦士セーラームーン」ではさらにその支持を拡大し,海外からのファンも獲得した.その後「カードキャプターさくら」でメガヒットを記録し,その地位を確固たるものにして現在に至っている.


また「なかよしアニメ」は他のアニメや漫画と異なる点がいくつかあったり,作品を分析すると一定の傾向が見えてくる.以下はそれら,「なかよしアニメ」の特徴について説明しようと思う.

2.1 魔法少女アニメ

なかよしアニメと云えば「美少女戦士セーラームーン」や「カードキャプターさくら」に代表される魔法少女アニメを彷彿させられるのは私だけだろうか?魔法少女アニメを狭義に“オーパーツ異世界のテクノロジーを使い『変身』するアニメ”と定義するならば、「美少女戦士セーラームーン」、「カードキャプターさくら」はもちろん、「怪盗 セイント・テール」、「おジャ魔女どれみ」、「東京ミュウミュウ」、「マーメイドメロディーピチピチぴっち」が挙げられる.
また広義に“オーパーツ異世界のテクノロジー、又は特殊能力を使うアニメ”と定義するならば、「魔法騎士レイアース」、「夢のクレヨン王国」、「ミラクル☆ガールズ」も含まれ、1992年「美少女戦士セーラームーン」以降の作品のほぼすべてがこの系統に順当する.これは90年代以前の作品と数の違いから比較しにくいが、他誌に比べても異常なほど多い.

2.2 低年齢化時代

さらに年表を作っていて気づいたことだが、1995年の作品「あずきちゃん」以降、主人公の低年齢化が何かに摂りつかれたように進行してゆく.
それ以前の主人公は高校生又は中学生までであったのが、青年層のウケを本格的に狙ったのか*2、主人公の年齢が小学生に設定されることが多くなり,美少女趣向からロリ崇拝にシフトしてゆく.
おジャ魔女どれみに至っては、中学生を“おばさん”であると明言するなど,明らかに低年齢化を推奨する動きがある.しかし,「カードキャプターさくら」の終了と同時に,この思想は衰退していっている様に見える.*図参照

2.3 恋愛感

主人公の年齢設定以外,恋愛感についても低年齢化時代の作品とそれ以外の作品(スタンダード作品)とで大きな違いが存在する.
低年齢化時代の作品は一貫して恋愛を排除する傾向があり,どちらかといえば友情や母子、家族をテーマにした作品が多い.これは、小学生では男女の身体的特徴が明確に現れておらず、恋愛を理解できないとしているためかもしれない.
一方,スタンダード作品は最終的に主人公と想い人の壮大な恋愛劇に収束する傾向にある.

2.4 悪役・戦闘

セーラームーン第一期以降なかよしアニメは少年漫画のような勧善懲悪型ではなくなり,内面的に成長し,悪役が必ず最終的に浄化されたり,己の愚かさに気づく等、悪役としての役割だけでなく背景や深み(自我)を持つようになった.
戦闘シーンでは、これも少年漫画とは異なり、極端に暴力的な演出を避け,すべてキャラクターの2,3個ある技だけで相手を倒し,「マーメイドメロディーピチピチぴっち」にいたっては歌で相手を倒すなど,過激な戦闘を必要に拒絶している.*3
戦闘に関してのみ述べるならば、確実に少年漫画と一線を画していると言えるだろう.さらにCCさくらおジャ魔女どれみなどの,低年齢化時代の作品では悪役が存在しなくなり,魔法も他人と相互理解を深めるためのツールとして用いられるケースが増えてゆく.

3 プリキュア

上記の事象を踏まえて「ふたりはプリキュア」を観てみると、実験的な要素が多々含まれていることが見えてくる.系統としては魔法少女アニメの血を受け継いでおり、主人公も中学2年生とスタンダード作品のスタイルを取っているのだが,反面、恋愛感に関して, 想い人は登場しているが, 登場頻度が極端に少なく,事件に巻き込まれたことも今のところ無い(あったかな?).
さらに敵もただの悪として扱われ, 1993年以降排他されてきた勧善懲悪型を取っており, 戦闘に関しても, 今までのなかよしアニメでは避けていたような, 少年漫画風の激しいアクションシーンを多数描写している.
この変化についてさらに着目すると,“女児の少年化”という事実が浮かび上がってくるかもしれない.*4
また、これまでキャラクターデザインについて言及していなかったが、これについても挑戦的なところがある.スタンダード作品は一貫してヴィジュアル的に等身が高く、足も長くデザインされていることが多いのだが、この作品は戦闘シーンの動きを優先させるためか、低年齢化時代の作品の様な思い切りのいいデフォルメをしてキャラクターデザインを卸してきた.
このことから、年齢設定としてはスタンダード作品の血を受け継いでいるが、戦闘シーンは少年漫画であり、キャラクターデザインやストーリー構成は低年齢化時代の影響下にあると言える.
見方によれば、なかよしアニメの集大成であり、さらなる支持を獲得しようと奮闘している(少年層の獲得)という、とても野心的な作品であると評価できるかもしれない.
これらの事象から「ふたりはプリキュア」は多くのイレギュラーな要素を含んでおり、革命的な作品になる可能性を多数内包していると言え、今後の動向に十分注目しておくべき作品であると云えるだろう.

3.1 今後の展開

2005年2月6日からスタートした「ふたりはプリキュアマックスハート」で,現在私が最も注目している点は,勧善懲悪型を貫き通すのか?という点.さらにプリキュア独特の少年漫画風アクションシーンの描写が,今後のなかよしアニメにどのように影響してくるのか?という二点である.

*1:近年ではアニメとタイアップで連載が開始されるものも多い

*2:それまでが本格的でなかったわけでは当然ない

*3:魔法騎士レイアースに対しては、この評価は該当しない.この作品にはCLAMPが『少女マンガで巨大ロボットモノを書いてみよう』という実験的な要素が多大に含まれるからである

*4:近年、女性でも男性漫画週刊誌を読むなど、女性の中の、男性漫画やアニメの評価が向上しつつあることの影響もあるのではないだろうか?今回は詳しく検証しない